晩冬に吹く風は、
冷たく、淋しく、僕の心を潤した___。
白の絨毯にもポツポツとグレーが見え始め、冬の終わりを感じさせるが、吹き付ける風は未だ冷たく、僕は唇だけで呟く。
「寒いな。」
昨年、仕事や人間関係から軽いうつ症状を発症した。
会社は休職の提案もしてくれたが、それを断り、福島の実家に帰ることにした。
全部やり直したかった、リセットしたかったんだ。
外に出られるようになったのは、ついこの間だ。
リハビリがてら近所のカフェで読書をするのが最近の日課になっていた。
寒い、ここ数日でいちばん冷えるな。
大通りの交差点を渡れば目的のカフェ。
僕は身体を縮こませて信号が青に変わるのを待っていた。
そこに、ひときは大きい風が吹いた。
ごうごうと耳元で風が騒ぐ、
思わず顔を伏せて身構えるが、風が運んできたのは冷たさと、ほんの少しの温かさ。
ポプっ…
下げた頭に不思議な感触がした、
風が止むと僕の手には赤いマフラーが握られていた。
強風でマフラーが飛ばされたんだ、誰のだろう。
僕は辺りを見回す。
「ス…スミマセン…。」
細く小さい声は周りの雪へ吸い取られながらも僕の耳はその振動を受け取った。
僕は声のする方へ振り向く。
白____。
瞬間、僕に衝撃が走る。
ぶるぶると震え上がったのは身体ではなく、"心"だった。
上目気味に僕を伺う大きな瞳に僕の意識は吸い込まれた。周りの雪に溶けてしまいそうな白い肌は、艶やかな黒髪に包まれ、なんとかこの世に実態を留めている。うっすら紅を帯びた小さな唇はわなわなと震え、僕の欲情を掻き立てる。
なんて儚くて尊くて美しいのか。
これが、"恋"______?。
僕はすごく阿呆な顔をしていただろう、
痺れた喉から絞り出す。
「こ、これ君の…?」
僕の問いかけに彼女は困った顔をして、
「ウン…ワタシ、ニホンゴ、スコシダケ…」
これは、僕と雪と彼女の冬物語。